人生会議とは?もしもの時に備える医療・介護だけでなく「お金」と「意思決定」を整えることの大切さ

もしもの時、どんな医療やケアを望むのかを話し合う「人生会議(ACP)」。厚生労働省が推進する取り組みとして広く知られるようになりましたが、実際の介護現場では、医療方針だけでは解決できない“もう一つの大きな問題”があります。それは、認知症や要介護状態になった時の お金の管理 と 意思決定の負担 です。

老人ホームを検討するご家族にとって、医療とケアだけでなく、生活費・入居費・財産管理・家族間の役割などをどう整えるかは切り離せない重要なテーマです。

本記事では、厚生労働省の定義に基づいた人生会議の基本を解説したうえで、介護の長期化・判断能力の低下・財産凍結など現場で起きる課題を踏まえ、「本当に必要な人生会議」のあり方をわかりやすく紹介します。

人生会議(ACP)とは?厚生労働省が示す定義と目的

人生会議とは、厚生労働省が推進する「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」の日本における名称で、本人が望む医療やケアについて前もって話し合い、家族や医療・介護職と共有する取り組みのことです。

厚生労働省は、人生会議を「本人が自分の意思を表明し、その意思に沿った医療やケアを受けられるように支援するためのプロセス」と説明しています。もしもの時に延命治療を望むのか、どこで最期を迎えたいのか、誰に自分の意思を託したいかなどを、本人を中心に周囲が理解し合うことが目的とされています。

しかし、医療選択を促すために作成された啓発ポスターが「死を身近に感じさせる」「病気の人が傷つく」と批判を浴びて撤回されたように、人生会議の啓発は必ずしも順調に進んでいるとは言えません。

それでも、これから高齢期を迎える人や、すでに親の介護に直面している人にとって、人生会議は大切なテーマです。医療だけでなく、生活・住まい・家族関係に広く関わる問題だからこそ、介護業界全体で正しく理解する必要があります。

老人ホーム探しの前に考えるべき「もしもの時の生活」と家族の負担

老人ホームを探す人の多くは、「介護が必要になったらどうしよう」「家族に迷惑をかけたくない」という不安を抱えています。人生会議は、医療やケアの希望を話す場として紹介されがちですが、実際の介護現場ではそれだけを決めてもうまくいかないことが少なくありません。

高齢者の多くは、元気な時に「自分のことは自分で決める」と考えています。しかし、認知症が進むと判断能力が低下し、その人自身が望む生活や医療を正確に表明することが難しくなっていきます。さらに、要介護状態が長期化すると、子どもたちは時間と労力だけではなく、多くの場合は経済的な負担も背負うことになります。老人ホームの費用、病院との行き来、緊急時の対応、手続きの連続など、介護に伴う責任は想像以上に重いものです。

筆者は、長年の現場経験から、医療やケアの希望を共有するだけでは不十分であり、「お金」と「意思決定」をどう託すかを話し合っておかないと、家族が疲弊し、関係が壊れてしまう場面を数多く見てきました。

認知症になる前に必ず考えておくべき「お金の管理」と「決めごと」

認知症が進行すると、銀行手続きや不動産の管理ができなくなります。本人の財産に触れることもできなくなり、家族が生活費や入居費を肩代わりせざるを得なくなることもあります。それによって、子どもたちが「なぜ自分ばかりが負担するのか」と不満を抱えたり、兄弟間でトラブルが起きたりすることは珍しくありません。

筆者は、人生会議を「医療やケアの話し合い」だけで終わらせず、本人が元気なうちに財産管理の仕組みや、信頼できる家族への権限の委譲についても話し合うことが重要だと考えています。たとえば、自宅や預貯金、不動産収益の管理などを家族信託で託すことができる場合、認知症になった後もスムーズに資金を介護費用へ回せるようになります。本人が希望する生活を実現するためには、感情だけでなく、現実的な経済の流れを整えておくことが不可欠だからです。

参考:人生会議とは?もしもの時の医療やケアの話し合いとお金の問題(介護健康福祉のお役立ち通信)

認知症になったら、成年後見人をお願いすればいいんでしょ!?という安易な考えで後悔する人が続出

成年後見制度とは、認知症や知的障害、精神障害などにより判断能力が十分でなくなった人の財産や生活を、家庭裁判所が選任した後見人が支援する制度です。

介護施設の人やケアマネジャーでさえも、認知症になったら後見人をつければ大丈夫と説明してくるケースが多いですが、実際に認知症になり、成年後見制度を利用して後見人に支援してもらうことになった場合、後見人は本人にとっての利益のみを判断基準として財産を使うため、実質的には介護施設の費用や生活に必要な費用程度しか使われず、後見人が付いた場合には家族でさえも親の預金や財産に対して何もできなくなります。また、後見人は裁判所が関わるとはいえ、無料で行われるわけではなく、後見人に月2〜6万円ほどの報酬(費用)が発生します。

親が認知症になる前に対策をしておかないと、実質的にこのような成年後見制度を利用して法定後見という形で家庭裁判所が選任した人が後見人となり、裁判所の判断や後見人の裁量に従って本人の財産の支出などが行われることとなるのです。

参考:成年後見制度とは?ひどいデメリットも含めてわかりやすく解説! - 横手彰太 認知症とお金の問題 コラム

参考:成年後見制度とは 認知症などで判断が困難な方の契約等を補助(介護健康福祉のお役立ち通信)

家族間トラブルを避けるための人生会議は、医療・介護・財産・住まいをつなぐ視点

実際の介護現場では、どこで誰が介護を担うのか、入居費や医療費は誰が負担するのか、急変時の判断を誰が行うのかなど、医療と生活と財産が複雑に絡み合って問題が生じます。こうした問題は、元気な時にきちんと方向性を共有しておかないと、家族を深く悩ませる原因になります。

老人ホームの入居検討そのものが、人生会議を行う最適なタイミングとも言えます。住まいをどうするのか、どんなケアを望むのか、費用の負担はどうするかを、家族が一緒に話し合っておくことで、将来のトラブルを回避しやすくなります。特に、一人暮らしの高齢者や子どもが遠方に住んでいる家庭は、早めにこうした話し合いをしておくことがとても重要です。

筆者が考える「本当の人生会議」は、本人と家族が前向きに生きるための約束づくり

筆者が最も伝えたいのは、人生会議は死や延命の話だけをする場ではなく、本人と家族がこれからの人生を前向きに生きるための「約束づくり」の場であるという考えです。

家族信託コンサルタントの横手彰太さんも、認知症や病気によって判断力や生活力が弱くなる前に、信頼できる家族にお金や不動産の管理を託す仕組みを整え、家族全員が無理なく支え合える体制を作っておくことが、結果的に本人の尊厳を守り、家族の負担も軽減します。

参考:家族信託コンサルタントの「横手彰太」さん

老人ホームを検討するという行動そのものが、リアルに毎月かかるお金がわかり、どんな生活になるかをリアルに想像できるという意味ではよりよい人生の選択を模索する大切な一歩です。

だからこそ、住まいだけではなく、医療、介護、財産、家族の関係性を総合的に見つめ直す機会として、人生会議を前向きに活用していただきたいと考えています。

Xでフォローしよう