介護療養型医療施設はなぜ廃止された?老健や医療介護院との違い

かつて介護保険制度の中で重要な役割を果たしていた「介護療養型医療施設(療養病床)」は、2024年度末をもって制度上の廃止が完了しました。現在では、代替となる施設として「介護医療院」や「介護老人保健施設(老健)」が設けられており、それぞれ異なる役割を担っています。

本記事では、厚生労働省の制度改正に基づき、介護療養型医療施設が廃止された理由と、老健・介護医療院との違いについて詳しく解説します。

介護療養型医療施設とは何だったのか

介護療養型医療施設は、もともと医療法に基づく「療養病床」を転用したもので、2000年の介護保険制度創設時に位置付けられました。主に長期療養が必要な高齢者に対して、医療と介護の両方を提供する施設であり、医師・看護師による医療管理のもとで、寝たきりや重度の認知症などを抱える要介護者を受け入れてきました。

この施設の特徴は、医療依存度が高い高齢者を対象に、終末期ケアを含む医療的管理を継続的に提供できた点にあります。病院に準じた人員配置や医療設備が整っていた一方で、施設としての生活支援やリハビリの機能は限定的であるとの指摘もありました。

廃止の背景と政策的理由

厚生労働省は、2006年に介護療養型医療施設の廃止方針を打ち出しました。理由のひとつには、医療施設としての色合いが強すぎるため、介護保険制度本来の「生活支援・自立支援を目的としたサービス提供」という理念にそぐわないと判断された点があります。

また、同施設は医療機関を母体とすることが多く、結果的に長期入院と変わらない実態を生んでいたことも課題視されました。療養病床のまま介護保険を適用する形では、生活の質の向上や在宅復帰の支援といった観点が後回しにされやすく、制度の持続可能性や費用対効果の観点からも見直しが求められたのです。

さらに、制度の多様化によってより柔軟なケアモデルが求められるようになったことから、時代に合った新しい類型への転換が必要とされ、最終的に介護療養型医療施設は廃止されるに至りました。

介護医療院・老健との違い

介護療養型医療施設の廃止にともない、代替となる施設として設置されたのが「介護医療院」と「介護老人保健施設(老健)」です。両者はそれぞれ異なる理念と運営方針を持ち、利用者の状態や目的に応じて使い分けられます。

以下の表は、介護療養型医療施設と、現在の主な代替施設である介護医療院、老健の特徴を比較したものです。

項目介護療養型医療施設(旧制度)介護医療院介護老人保健施設(老健)
目的長期療養・医療提供長期療養・生活支援・看取りも含む在宅復帰支援・リハビリ重視
医療体制医師常駐・医療機関併設型医師常駐・24時間対応医師常駐(夜間はオンコール体制)
看取り対応可能だが生活支援機能は限定的看取り対応可能・個室やユニット型あり原則として看取りには非対応
生活環境病院的な雰囲気・共同室中心生活施設としての整備あり生活訓練・リハビリ中心の居住環境
入所期間長期利用が前提長期利用可原則3〜6か月以内の短期利用
ケアの特徴医療中心・自立支援要素は弱い医療・介護・生活支援の統合ケア自宅復帰を目指したリハビリ中心

このように、介護医療院は介護療養型医療施設の機能を引き継ぎつつ、生活支援や尊厳あるケアの観点を強化した形で創設されました。一方、老健は中間施設として在宅復帰を目指すリハビリ施設であり、介護医療院とは根本的に目的が異なります。

介護医療院とは?

介護医療院とは、2018年に創設された新たな介護保険施設で、医療と介護の両方を必要とする要介護高齢者に対し、長期的な療養と日常生活支援を一体的に提供する施設です。従来の介護療養型医療施設の役割を引き継ぎつつ、居住環境や生活の質(QOL)の向上にも配慮されています。医師や看護師が常駐し、24時間の医療的対応が可能で、慢性疾患や重度認知症、看取りのニーズにも対応します。療養室はユニット型や個室を中心に設計されており、生活の場としての整備が進められています。地域包括ケアの一環として、在宅では対応が困難な高齢者の受け皿となることが期待されています。

老健(介護老人保健施設)とは?

介護老人保健施設、いわゆる「老健」とは、病状が安定した高齢者に対して、在宅復帰を目指して集中的なリハビリテーションを行う介護保険施設です。主に病院退院後の受け入れ先として機能し、医師、看護師、理学療法士、介護職員などがチームでケアにあたります。医師が常駐し医療的管理も可能ですが、生活支援や身体機能の回復を通じて、家庭での生活に戻ることを目的とした中間施設です。入所期間は原則3~6か月とされ、一定期間内での自立支援と在宅環境の整備を目指します。在宅生活が困難な場合でも、本人の能力に応じた生活機能の維持・向上に向けた支援が提供されます。

今後の高齢者ケアにおける位置づけ

介護医療院は、医療的ニーズと生活支援を両立させる「長期療養の場」として、地域包括ケアシステムの中核を担うことが期待されています。特に、在宅や特養では対応が困難な中重度の医療ニーズを持つ高齢者にとって、重要な受け皿となっています。

一方で、老健施設は短期集中的なリハビリを通じて在宅への移行を支援する場であり、医療依存度の低い高齢者の自立支援に効果的な役割を果たしています。今後は、両者の特性を活かし、地域の実情に応じた適切な施設選択とケア提供が求められる時代へと進んでいきます。

まとめ

介護療養型医療施設の廃止は、単なる制度変更ではなく、介護保険制度の理念と今後の高齢者ケアの在り方を見直すための大きな転換点でした。医療と介護の融合を目指す介護医療院の創設や、在宅復帰支援に特化した老健の活用により、多様なニーズに応える体制が徐々に整いつつあります。

施設選びやケア方針の判断にあたっては、各施設の目的や役割、制度上の違いを理解することが極めて重要です。制度の動向を常に把握し、より良いケアの実現に向けた選択と支援を行っていきましょう。

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