日本において、老後の生活を支えるための一つの柱が国民年金です。しかし、国民年金だけで老人ホームに入居し、安定した生活を送ることができるのかという疑問を持つ方も多いでしょう。この記事では、国民年金の支給額や、老人ホーム・介護施設の費用の具体例、費用の減免制度を活用した場合の事例を交えながら、国民年金のみの収入で老人ホームに入居できるかどうかを詳しく解説します。
結論からお伝えすると、国民年金の支給額だけでも、特別養護老人ホームの費用負担を減額した状態ならばギリギリ入居できます。その前提やシミュレーションを、できるだけわかりやすくかつ詳しく解説していきますので、最後までお読みいただき、施設探しの参考にしてください。すでに老人ホーム入居中で費用が払えないという場合にも役立つと思います。
国民年金と厚生年金の比較表
まず、国民年金と厚生年金の違いについて整理しておきましょう。国民年金は主に個人事業主が入る年金で、保険料と支給額がほぼ一定になるものです。2023年の国民年金支給額は、以下のように満額で年間約781,700円(月額約65,141円)となっています。
項目 | 国民年金 | 厚生年金 |
---|---|---|
加入対象 | 自営業者、フリーランス、学生、無職者など | 会社員、公務員 |
保険料の負担者 | 本人が全額負担 | 本人と事業主が半額ずつ負担 |
保険料 | 月額約16,610円(2023年度) | 収入に応じて決定(給与の約18.3%を折半) |
支給額 | 満額で年間約781,700円(月額約65,141円) | 平均報酬額と加入期間に基づく |
主な加入者 | 自営業者、農業・漁業従事者、パートタイム労働者など | 会社員、公務員 |
国民年金のみの人とは
国民年金のみの人とは、会社員や法人の役員・従業員、公務員などだった期間が無く、厚生年金に加入していた期間もないため、高齢年金による老齢年金が受けられない人のことです。一定の条件を満たす直接雇用関係にあった場合には、厚生年金への加入が義務付けられていますが、自営業などの場合には厚生年金への加入ができず、日本の制度上、年金支給額が安くなってしまう国民年金になっています。
自営業者やフリーランス
自営業者やフリーランスの人々は、厚生年金に加入していないため、基本的に国民年金のみを受給します。個人事業主と法人を両方もち、法人側で厚生年金に入っていた場合には例外となりますが、個人事業のみの場合には自分で国民年金保険料を支払う必要があり、将来的に受け取る年金も国民年金のみとなります。
農業・漁業従事者
農業や漁業などの第一次産業に従事している人々も、企業や法人などで雇用されていない限りは、自営業者と同様に国民年金のみに加入していることが一般的です。
パートタイム労働者やアルバイト
週の労働時間や収入が一定の基準を満たさないパートタイム労働者やアルバイトの人々は、厚生年金に加入できない場合が多く、国民年金のみの受給となることが多いです。
非正規雇用者
契約社員や派遣社員などの非正規雇用者も、働く条件によっては厚生年金に加入せず、国民年金のみを支払う場合があります。
無職の期間が長い人
長期間にわたり無職であった場合、その間は国民年金のみを支払っていることになります。特に中高年での失業や転職活動中などにこの状況が見られます。
国民年金の支給額の具体例
まず、国民年金の支給額について理解しておきましょう。2023年時点での国民年金の満額支給額は、年間で約781,700円(月額で約65,141円)です。ただし、支給額は加入期間や納付状況によって異なります。以下は、納付期間に基づく支給額の例です。
納付期間 | 月額支給額 |
---|---|
40年間全期間納付 | 約65,141円 |
30年間納付 | 約48,856円 |
20年間納付 | 約32,570円 |
これが国民年金の場合の支給額の目安になりますので、これを踏まえて老人ホームや介護施設の費用を見てみましょう。
老人ホーム・介護施設の費用
老人ホームには、特別養護老人ホーム(特養)、介護付き有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)など、さまざまな種類があります。それぞれの費用は大きく異なりますが、以下は一般的な費用の目安です。
施設名 | 月額費用 | 特徴 |
---|---|---|
特別養護老人ホーム(特養) | 約8万円〜15万円 | 看取りまで可能、公的な自己負担限度制度あり、重度の要介護者向け |
介護付き有料老人ホーム | 約15万円〜30万円 | 民間運営、看取りまで可能、公的な自己負担限度制度なし |
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住) | 約10万円〜25万円 | バリアフリー設計、自立した生活が可能、一時的な住居 |
介護付き有料老人ホームという施設の中でも、サニーライフやイリーゼといった施設は安い施設ですが、それでも月額約15万円~となってしまいます。
国民年金の支給のみで老人ホーム・介護施設への入居はできる?
国民年金のみの収入で老人ホームに入居する際の最大の課題は、月額費用と年金支給額のギャップです。例えば、満額の国民年金を受給している場合でも月額約65,141円であり、特養の最低費用である月額約8万円を下回ります。これにより、次のような問題が生じます。不足する費用をどのように補填するかが課題となります。貯金や家族の援助、公的補助制度の利用などが考えられます。老人ホームの費用以外にも、日常生活に必要な費用(医療費、食費、雑費など)を賄う必要がありますので、最低でも生活のために月数万円はプラスして資金計画をしておく必要があります。
公的補助制度の活用
国民年金のみの方でも利用できる公的補助制度がいくつかあります。例えば、低所得者向けの介護保険料の減免制度や、生活保護制度、社会福祉法人による減免措置などがあります。これらの制度をうまく利用することで、老人ホーム入居のハードルを下げることができます。
介護保険料の減免制度
低所得者向けに介護保険料が軽減される制度です。
生活保護制度
生活費や医療費を支援する制度で、必要に応じて老人ホームの費用もカバーされる場合があります。
負担限度額認定制度
特別養護老人ホーム・介護老人保健施設・介護医療院への入所をする場合には、収入に応じて利用料が減免される場合があります。特別養護老人ホームの費用が安いと言われる理由は、この制度の認定を受けられた場合に、自己負担の限度額が決められてそれ以上の支払いが免除されるからです。
地域や認定区分によるが国民年金のみで老人ホーム・介護施設への入居はできる
特別養護老人ホームに入居した場合の料金シミュレーションです。
特別養護老人ホームの費用
特別養護老人ホームの費用には、介護保険分、居住費、食費、その他の費用があります。
介護保険分は、要介護度や施設の形態によって異なりますが、要介護5で1日当たりおよそ1万円(1割自己負担だと1000円)くらいだと考えてください。居住費、食費は施設によって自由に決められるのですが、負担限度額認定を受けて1段階という最も減免が大きい区分だった場合には、居住費の負担は1日800円程度、食品の負担は1日300円程度まで減額されます。
項目 | 1日当たりの費用 | 1ヶ月当たりの費用 |
---|---|---|
介護保険分(要介護5) 自己負担1割 | 約1,000円 | 約30,000円 |
居住費(負担限度額認定1段階) | 約800円 | 約24,000円 |
食費(負担限度額認定1段階) | 約300円 | 約9,000円 |
この表を基に、月額費用を計算すると、特別養護老人ホームの入居費用の合計(その他生活費は含まない)は、月額約63,000円となり、国民年金を満額支給されている場合には年金で1月当たり約65,000円の支給があるので、ギリギリ入居できるという計算になります。
※このシミュレーションは、あくまでも現時点での制度に基づくものであり、施設によって異なります。
※医療費や生活費、急な出費などを含まない必ず発生する固定費に関する計算なので、実質生活を送る上では国民年金の65,000円を超える可能性が高いです。
※介護保険自己負担限度額制度は、2024年8月、2025年8月に変更される予定です。
国民年金で、要介護3以上、費用を安くならば特別養護老人ホームしかない
要介護3以上、費用を安く介護施設に入所するという場合には、このシミュレーションで行ったように特別養護老人ホームに絞って探すことになります。特別養護老人ホームの費用的なメリットは、負担限度額認定を受けられた場合に大幅に安く済むことなので、まずは市役所で認定が受けられるか確認しましょう。その上で、同時進行で施設を探し始めましょう。特別養護老人ホームはこのように安く済む公的な施設なので、順番待ちが発生している施設も多いです。施設のホームページや施設情報を探すのは大変なので、施設の検索サイトのライフル介護やみんなの介護でいくつかの施設に資料請求や相談をして進めていく方が良いです。どちらの検索サービスも入居者側には特に利用料や仲介料などの費用はかからないので、うまく利用して進めていきましょう。ライフル介護とみんなの介護で掲載施設は少しだけ違うので、特別養護老人ホームで検索条件を絞って両方見てみることをおすすめします。
まとめ
国民年金のみで老人ホームに入居することは、費用面での課題が大きいですが、公的補助制度を活用することで実現可能な場合もあります。事前に費用の見積もりを行い、利用可能な補助制度についてしっかりと調査し、必要に応じて家族や専門家に相談することが重要です。
国民年金だけでも安心して老後を過ごすために、早めの準備と情報収集が欠かせません。この記事がその一助となれば幸いです。